【書評】リリエンタールの末裔(上田早夕里)

 
「リリエンタールの末裔」「マグネフィオ」「ナイト・ブルーの記録」「幻のクロノメーター」
以上の、上田早夕里さんの4つの作品集。

作品ごとに共通点はなく独立していて、総評を書くことは難しい。一つ一つがしっかりした世界観のもとに描かれているので、一編よみ終えるたび深く入り込んだ意識を現実に引き戻し、自分の中で咀嚼した上で、次の世界の扉を開くのには時間がかかった。

僕はSF小説が昔から大好きで、現代の科学や空想上の未来技術をとことん突き詰めたスケールの大きい、スティーブン・バクスターやラリィ・ニーヴンのハードSFとされる著作をよく読んだ。

この著者の作品は、それらとはどれも違っている。あり触れた現代の日常、テレビなどで見知っている歴史あるヨーロッパの街、地球の海深くでの探索を生き甲斐とする男の物語などで、宇宙はるか遠くの何処ともしれない世界へ飛び出すのはなく、地球上のどこかにあるような場所で、ほんの少しのSF的な要素が盛り込まれ、そこに住む人々の生き方や行動に深く関わっている。

それは近未来的であったり、 魔法のような印象を受けることもある。得体のしれない技術は魔法と見分けがつかず、誰にでも使える道具になって初めて、魔法ではなくなる。

この文庫のタイトルになっている「リリエンタール」は、オットー・リリエンタールのことで、ハンググライダーでの飛行実験を行い初期の航空工学の発展に貢献した実在のドイツ人だ。
いまの人類から少し身体的な進化を遂げた部族の少年が、リリエンタールの功績に惚れ、同じように空を舞うことに人生をかけようとする。構成としては読みやすいビルドゥングス・ロマンであり、短い時間でもわりとサラリと読める。

子供の頃の夢を垣間見たような、清々しくて爽やかな読後感の、第一編だった。

“書くことによって、
私もまた〈物語〉の一部となるのだから。”

 
「ナイト・ブルーの記録」より

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