川上弘美さん著、ある商店街に住む人々の、十一の短編からなる悲喜こもごもの物語。
一つの短編ごとに、商店街の住人である主人公がいて、彼らの生活や一生が描かれている。他の編で一文だけ登場した何気ない人物(そばを通り過ぎるだけだったり、職場の同僚であったり)が、後の短編では主人公として、秘められた思いが告白されていく。
読み進めるにつれ、街に住む人たちの多様な人生が見えてくるようになっている。
物語というより、彼らの記憶だ。
読み終わってまず感じたのは、「疲れた。」ということだった。
この短編たちは、彼らの人生の集合体だ。彼らが生きてきた上で感じたことを洗いざらいぶちまけ、感情のままに綴っている。まるで彼らが目の前にいるような、そんな印象。
積もり積もった人生の苦労話を聞き続けるのだから、そりゃ疲れるよな、とは思った。
ここには救いとか達観とか有り難みとか冒険なんてものはない。生きてるってこういうものなんですよ、と諭されてるような気がした。幸せでもないけれど、たぶん不幸せでもない、そんな生温いもんなんですよ、と。普通に生きようとしたら、こうなっちゃうのが普通なんですよ、というべきだろうか。
ある意味では、枠を外れ過ぎ損ねた人々とも言えるのかもしれない。
感情の描き方が深く柔らかで、独特の調子で、主人公の心が浮き彫りになっている。この調子のせいか、僕は彼らの人生の深みにズブリとハマッてしまった。一緒に寄り添って生きてるような(たぶん守護霊的な)そんな感じがしたのだ。
ああ、こうやって見守り続けるのは疲れるだろうな、と。
時系列も同じようでバラバラなところもあり、彼らの生活や感情をこっそり覗き見て、ふよふよとしている。読む僕自身が、商店街の住人全体の守護霊になっている。
そこにあるのは、全てを見通す神のような視点ではなく、諦観に近い。こうやって人の命は生きて回り続けるのだと思って、僕はまた最初から読み進める(ループする)のだった。
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