(この記事はネタバレを含んでいます、小説を読まず映画だけ観て書いています)
先日、クリストファー・ノーランの「インターステラー」、二度目をIMAX劇場で観てきた。
僕の住んでいる京都府内にはIMAXはなく、大阪の109シネマズ箕面まで(片道1時間半程)。
休日であり最も混む夕方とあってか、席は8割方埋まっていた。
久々に痺れるハードSFだった。
インターステラーのタイムライン解説グラフィック (deviantart)
現在、過去、未来を激しく行き来するインターステラーの時間軸が分かりやすく図式で解説されている。
Interstellar Movie Timeline.
by sivadigitalart
近い将来訪れる、地球規模の危機
断片的に語られるが、どのようにして世界が荒廃し滅亡に向かっているのかは明確に描かれていない。
地球滅亡の映画のパターンだと、アルマゲドンのような隕石の飛来、また温暖化による洪水などで、一斉に人類を消し去るものが多い。こういう災害だと人類の死は一瞬で、苦痛は少ないように見える。インターステラーで描かれているような食糧危機 * 1 や自然災害では、緩慢な死である。劇中では砂埃による呼吸障害も描かれており、苦痛も多いはずだ。
おそらく、実際に訪れるものとしては、こちらの方が近い。
スタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」との比較
神のような存在に導かれて、宇宙の遥か遠くへ旅立つ映画としては、この作品と並べてみたくなってくる。
インターステラーはワームホールの発生と重力の異変、2001年宇宙の旅 はモノリスとそこから発せられる強力な電波をメッセージとして受け取り、物語は進み始める。クーパーは異なる銀河と高次元空間へ、2001年宇宙の旅 のボーマン船長も同じような未知の空間へと連れ去られた。
違うのは、2001年宇宙の旅では、人としての姿で帰ってこれなかったことだ。ボーマン船長は超人類へと進化し、我々が知る人ではない存在として帰ってくるしかなかった。それが神の采配か本人の意思か幸福かは別として、それはつまり、帰ってきたところで従来の人としての生き方は叶わないということである。
友好的で頼れる人工知能
箱型で様々な形に変形する「TARS」と「CASE」という人工知能。新天地の候補である惑星に降り立ち空前の大波が乗組員に迫るシーンでは、真っ先に乗組員を救出に向かう。ガルガンチュアでは人類のためにと、ブラックホールに飛び込んでいった。
故障して誤動作し人類に反逆するようなシーン * 2 は見られず、終始人類のために働き、人工知能というのはこうあって欲しいという希望のようなものが感じられた。遠く離れた名も無い銀河、極限の生活のなかで、決して消えることのない彼らのジョークだけが救いであったようにも思う。
想起しやすい宇宙探査の未来予想図
人が将来、恒星間航行 (Interstellar [恒星間の〜]) に足を踏み出そうとしたとき、どのような苦悩や存在に出会うのか。それを描くうえで、人が人の姿のままで存在し続けることは重要なことのように思う。オカルト色が薄れ、現実味が増すからである。数十年たてば、白髪が増え、肌には深い皺が刻まれ、瞳は遠くを映すようになる。それは人の寿命との戦いを、時間との戦いを想起させる。
広大な宇宙では、位置や自身が移動する速度等により時間の進み方が大きく異なる(ウラシマ効果)。短すぎる寿命に縛られた人の身体と精神を、大きくなった時間のズレが引き裂いていくのもリアルだ。オカルト的な超技術によって超光速で恒星間航行を行っても時間のズレが一切ないスター・トレック * 3 やスターウォーズとは違っていた。
オカルトと科学的な整合性、救い
高次元の時空、異なる世界、あの世、黄泉の国、神の住む世界、どのような呼び名でも構わないが、これらに共通しているのは、およそ人が観測できない未知の世界ということだ。
ガルガンチュア(超巨大ブラックホール)に吸い込まれ、死を迎えるだろうと思われたクーバー。何者かに導かれ、五次元 * 4 の世界を三次元生命体が行き来できるようにマッピングされた世界で、娘マーフの自室の裏側に時空を超えて辿り着く。どんなに声を張り上げてもマーフには届かないが、叩きつけた腕の力が書棚の本たちを倒すのを見て、重力だけは異なる次元に届くことを身をもって知る。* 5
クーパーは、高次元空間に連れ去られることで一種の臨死体験を行い、あの世(高次元の時空)とこの世の橋渡し役になっていた。実際にはクーパーは死んでいたわけではないが、時空を超越し、そこから過去の自分たちにメッセージを送り続けた。その姿は、あの世から見守っている守護霊のようなものと似ている。
日々の生活のなかで、それがどうして起きているのか分からないことは多い。だが人は科学の発展と共に「神の御業」とされていたことを解き明かしてきた。今では有り触れたものだが、インターネットや電波は古代人が見ればテレパシーのようなもの。指先を擦るだけで火が灯るライターなどは、まさに魔法である。人は「神の御業」を操作できるようになり、神の領域に近付いていく。オカルトだと思っていたものが、高度な技術をもつ何者かによって実現されるようになる。
それは、自分たちの日常においても高次元の何者かから見守られていると感じさせる、誰もが欲しいと思ってやまない「救い」なのかもしれない。
クーパーが五次元の世界から時空を超えて重力でメッセージを送り続けたシーンは、オカルトに科学的な整合性を持たせ、オカルトがオカルトでなくなった瞬間だった。
追記
劇中で最もハラハラさせられるシーンで流れる曲は「No Time For Caution」、ハンス・ジマー[Hans Zimmer] のサウンドトラックのデラックス版で聴くことができる。iTunes Music Store か、Amazon MP3 Store にて購入可能。聴いていると、迫り来る大波が目に浮かんでくる。
脚注
- 近い将来、確実に世界規模の食糧危機はやってくると言われている ↩
- 2001年宇宙の旅に登場する人工知能「HAL9000」は、重要な決断を下すシーンで、宇宙船の乗組員に反逆する ↩
- スター・トレックに登場するワープ航法は光速を超えても外部との時間のズレは生じない(参考:ワープ・ドライブ【スタートレック・wiki】) ↩
- まず我々の時空は四次元だと言われている(空間3次元・時間1次元)。そこに次元を1つ加えたとして、視覚的にどのようなものになるのかイメージするのは難しい。自分の住む世界の下の次元については理解しやすいが(例えば二次元などの平面は理解しやすいだろう)上については想像の余地を超えないからである。我々の世界は四次元とはいっても、視覚的には三次元的である。次元については、Dimensions Streaming の動画解説が参考になる。 ↩
- 重力だけは異なる次元にも影響できるとされる(見えない空間・異次元から作用してくる)(参考:ブレーンワールド【wikipedia】) ↩
0 件のコメント :
コメントを投稿