【書評】濡れ鳥/海辺のブドリ(じのん)

鴉(カラス)たちの生き様を描く、じのんさん jinon@twitter の短編小説。
Kindleアプリで初めて読む小説となった。

カラスたちの恋愛事情、縄張り争い、プライド。言ってしまえばコレだけなのだが、(短いだけでなく)どうにも読み進めずにはいられない感触を受けた。どこか既視感のようなものを感じたが、カラスという姿を取り去ってみれば、例えば荒野に住む人間の部族(モンゴルとか)の生き様に近いのかもしれないと思った。

部族といえば、長がいて、最も優れた狩人がいて、美しい少女がいて、兄弟のように育った仲の良い者がいて、若きものを導く長老がいる。そして、部族同士の争いも。 この小説はまさにそれだ。

現代のカラスは、生活ゴミを漁る黒い鳥として奇異の目で見られ、魔女の下僕とされる黒猫のように、悪しきものや不吉を象徴するものとして描かれることが多い。これについて僕は随分前から納得いかなかったが、読み終えてから、カラスたちを目で追うことが増えた。
街を歩くとき、自転車で素早く通り過ぎるとき、カフェで珈琲を味わいながら外を眺めているとき、ときどき、羽を広げ飛び跳ねるカラスたちが目に映り、彼らの物語について思い浮かべるのだ。

「俺達は、おまえたち人間なんてなんてことないんだぞ。」
「俺達には、俺達の誇りがある。」

一つ言うのなら、もう少し救いがあって欲しかった。
それでも、誇り高く、例え堕ちても、生き様を見せつけ、規律に生きる。

カラスたちの覚悟を見せつけられた。

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